支局長からの手紙:泣き虫と勝利の女神 /奈良
今、気になっていることは「フィンランドの結婚式」ですがこんなニュースがあります。
まだ、18歳の高校生が、これほど立派な態度をとれるものなのか。
ラグビーという競技の素晴らしさを再認識させられました。
天理高校ラグビー部主将、小林亮太さんのことです。
15日にあった第89回全国高校ラグビーフットボール大会奈良県大会決勝で御所実と対戦した天理は、引き分けで両校優勝ながら抽選で「花園」出場を逃しました。
私は大会主催者の一人として競技場内の一室で行われた抽選に立ち会いました。
そこには、私も経験したこともないような緊張した空気が張りつめていました。
当然です。
選手は花園を目標に練習を積み、試合結果は両校にその資格があることを証明しました。
しかし、どちらかは行くことができない。
その命運を一人の高校生が背負わざるを得ないからです。
結果は御所実のキャプテンが出場権を引き当てたのですが、私が目を見張ったのは、出場を逃した小林キャプテンの態度でした。
誰もが話しかけることをためらっていると、小林さんは、信じられないようなさわやかな笑顔を浮かべました。
それは決して悔しさ隠すために無理に作ったものではなく、自然に出たものに感じました。
そして、小さな声で「失敗でもOKです」と、一言だけ言って、部屋を後にしました。
私は、笑顔の理由を知りたくて後日、小林さんを訪ねました。
小林さんはコーチから言われた「泣き虫には勝利の女神はつかない」という言葉を大切にしており、「何事もポジティブに」が、80人を超える部員のキャプテンとして信条でもあったことを知りました。
そして、仲間の言葉に救われたことも明かしてくれました。
抽選会場から選手控え室に戻った時、天理の選手には既に結果が伝わっていたようで、泣いている選手もいました。
それでも、みんなから最初に掛けられた言葉は「ありがとう」でした。
「練習の基本は走ること。
試合はボールを動かして最後まで走り勝つ」というのが天理ラグビーの伝統だそうですが、決勝戦では目指す試合ができて悔いはなかったと言います。
仲間も同じ思いだったのでしょう。
小林さんの心中を察するに、悔しさと仲間への申し訳なさでいっぱいだったと想像します。
その夜は眠れなかったかも知れません。
それでも、自らがベストを尽くした結果を潔く受け入れ、感情を律することができたのは、ラグビーの最良の部分を見る思いがしました。
話を聞きながら、関東学院大学の元監督、春口広さんのこと考えていました。
大学ラグビー界では伝説的な指導者ですが、監督に就任した35年前、初練習のグラウンドで待っていたのは8人、関東リーグ戦3部の弱小チームでした。
それを大学選手権優勝校にまで育て上げたたぐいまれな情熱は、松瀬学氏の「強いだけじゃ勝てない」(光文社新書)に詳しいのですが、「強いだけでなく、周りから好かれるチームでなければならない」と、人づくりの大切さを強調しているのが印象的です。
残念ながら2年前、部員の不祥事で引責辞任したのですが、その真理は色あせることはありません。
決勝戦の試合後のグラウンドでは、天理の選手も、応援してくれたスタンドの観客へのお礼に回っていました。
先頭に立つ、小林さんはここでも笑顔で、御所実に勝るとも劣らない、称賛の拍手が起きていました。
改めて両チームの健闘をたたえたいと思います。
そして、御所実には、花園での活躍を願ってエールを送ります。
【奈良支局長・山内雅史(yamauchi‐m@mainichi.co.jp)】
11月24日朝刊
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最終更新:11月24日13時0分
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